保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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黒子組合 一

その日も梅渓先生のお宅から、梅花町の家に戻って来た。梅渓先生とは私の蘭学の師で、長崎留学を勧めてくれた人でもあり、私はその先生のところで代診を務めていた。家の近くまで帰り着くと、また例の三毛猫がこちらを向いている。私はあまり猫好きではないのだが、この家の女主人、鳩村まさ殿が大の猫好きで、この家の回りには、いつも数匹の猫がいるのが当たり前になっていた。

私はまず家の戸口を開け、鳩さんに挨拶してから部屋の方へ向かった。鳩さんというのは鳩村まさ殿のことで、最初はまさ殿と呼んでいたが、私の相方が鳩さん鳩さんと呼ぶのを聞いているうちに、いつの間にか鳩さんと呼ぶようになっていた。
「まあ先生、お帰りなさいませ。」
「今戻りました。今日はどうですか、また客人が来てますか」
「生憎お客様ですよ。でも商家の大旦那風でよさそうな感じの方です」

私の相方は保室といい、自称学者だが、様々な知識を活かして、奉行所の下手人捜索の手伝いをしていた。保室に直接依頼してくる人々もいて、私たちの部屋は、そのような客がよく訪れていたのだった。部屋といっても、共用の書斎と小さな座敷、それぞれの居室のささやかな所帯である。座敷を覗いてみると、案の定、如何にも大店の隠居風な人物がいて、保室と話をしていた。

保室も私がいることに気付いて、こちらに来るように誘い、私は履物を脱いで座敷に上がった。その隠居風の老人は善兵衛といい、黒子組合なるものに誘われて、歌集の写本を作る仕事をしていたが、ある日突然その仕事を打ち切られてしまったのである。
「黒子組合?そんなものがあるのですか」
「それが、うちの娘婿が一月ほど前、急にその話を持って来ましてな」

何でもその黒子組合というのは、顔か首に、ある一定以上の大きさの黒子のある者しか入れないらしい。その善兵衛も、右頬に見事な黒子があり、そのため娘婿から黒子組合なる物に参加するよう、持ちかけられたということだった。今は、店の切り盛りはその娘婿と信用のおける番頭にまかせていたため、暇のあった善兵衛は、悪くないと思ってその話に乗ったのだった。
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