保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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蜂曽我部家の怪猫 三

「ご家中の騒動が、いよいよ始まったっていうことさ」
保室は、あたかも自分が見て来たものであるかの如く、蜂曽我部家の騒動について話し始めた。
「まず焚き付けたのは筆頭家老の方だろう、それを食らった次席家老の方が、慌ててことを大げさにしてしまった。こうなれば、筆頭家老の思うつぼだ。お抱えの蘭学者たちは、皆どこかに身を隠さざるを得なくなる」
「なんでそんなことがわかるんだ」
「銀蔵にちょっと調べさせたのさ」
保室は、しばしば岡っ引きの銀蔵に小遣いを与えては、自分の都合でひとっ走りさせていた。それによると、別の蘭学者の家でも、ここと似たようなことがあったらしい。
「あるいは、次席家老殿は軟禁されているかもな」
「そんな滅多なことを言うもんじゃないぞ」

その後私は鳩さんに、病人の具合を聞いた。まだ熱がかなりあって、本人も気分がよくないらしい。
「面倒をおかけしますが、ここは人助けということで」
「あら先生、私は一向に構いませんよ。それに何と言ってもあずさが…」
「あずさが…どうしたのです」
「あの子があの半田先生を気に入ってしまったみたいで、何かにつけて世話を焼きに来るんですよ。静かにしておあげなさいと言っても、いえ奥様、私がやりますからとそればっかり」

その後、病人の部屋に粥を持って行くあずさとすれ違った時、冗談交じりに私はこう言った。
「あずさ、お前はあの先生に『ほの字』かい」
「あら、奥様ったらもう…でも、悪い方ではなさそうでしょ」
「確かにな。でもあまりあの先生に深入りするのはよくないぞ」
あずさは不思議そうな目つきでこちらを見たが、やがてうなずいた。私とて、あずさの看病はなかなかのものだとほめてやりたかったのだが、半田の背後には、本人も知らない黒幕が控えていると思えたからだった。さらにいえば、これは単なる小藩の争いではなく、幕府の蘭学政策にまでつながりかねない事態のように思えたのである。

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