保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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蜂曽我部家の怪猫 四

翌日、病人の具合が多少好転し、少しは口を利けるようになった。まだ、ここまで逃げてくるいきさつを訊くには無理があったが、こちらから言葉をかけると、いくらか落ち着くようだった。そんな時、障子の向こうで、何やら言い争う声が聞こえた。

「保室先生、何もそこまで言わなくてもいいでしょう」
「いや、あの半田さんに惚れてるんじゃないかと、そう思っただけなんだがな」
「そんなこと、私にいちいち聞かないで」
「隠すところを見ると、ますます怪しいぞ」
「先生、私今まで先生を尊敬していたのに、そんな人だったなんて…」

私が障子をがらりと開けると、そこに保室とあずさがいた。あずさは今にも泣きだしそうな感じで、その場から走り去っていった。
「どういうつもりだか知らんが、病人のいるすぐ隣で、そこまで大声で喋ることもないと思うが」
保室も気まずそうな表情になり、長身をかがめるようにして、我々の部屋の方へと戻って行った。

また二日ほど経ち、病人が身を起こせるようになったので、私はぼつぼつことの次第を聞き出そうと思い、半田某の枕元に座って、こう切り出した。
「半田殿、一つ二つ、尋ねたいことが」
「私も、お話したいことがあります」
そうして半田は、まず自己紹介を始めた。半田梅翁と名乗り、元々は蘭方医になりたくて蘭学を学んだが、西洋の文物に関心を持ち、縁あって、蜂曽我部家の士分に採り立てられ、若君に、植物や動物についての話をしていると言う。

「まさかお採り立てになるとは思っておらず、夢のようでした。しかし、いざ出仕するに当たって、ご家老の方から、服装に関して色々と注意があったのです。また、この城中で目にした物は、いかなることがあっても口外しないようにとのことでした」
「しかし、今あなたはそれを口外しようとしている」
「はい、かなり迷いましたが、あまりにも奇妙なことなので、先生にはお話ししておこうと思いました。何せ梅渓先生のお知り合いということなので」
半田梅翁は、そこまで言って大きく息をついた。

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