保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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蜂曽我部家の怪猫 十

我々は一旦、望月先生のお宅へ戻った。珍しく酒を酌み交わし、半田梅翁のことなどを話しているうちに、夜も更け、保室は私があてがわれている部屋の隣の、三畳間でその夜を過ごした。保室が寝ないで起きているのは、隣室の私にもわかった、しょっちゅう窓の障子を開け閉めしては、何かを考えているようだった。

その後私と保室は、あれこれ話し込んだり、外へ出て城の周辺を回ったりして日を過ごした。何となく見えて来るものはあったが、これといった決め手に欠け、保室はひどくそれを悔しがっているようにも見えた。やがて、望月先生のかつての菅家で、城中のことをよく知るという人物に会えることになった。

その人物は既に七十に達するかという外見で、本名は明かさなかったが、冨楽庵という雅号を名乗り、何でも聞いて構わないとかなり乗り気だった。保室はまず、半田から聞いていたこととして、須藤古之進の死因について尋ねた。冨楽庵は眉ひとつ動かさず、淡々と語った。
「須藤は、急に行方が知れなくなって、数日後お城の濠から遺体が見つかった」
「溺死ですか」
「そのようじゃったのう。何でもあのお城の、蘭学者たちにあてがわれる部屋には、何やら秘密があったそうじゃ」

「秘密…」
「左様、その部屋の床下には、何か奇妙な物が埋まっているということで、ひところ騒ぎになったものだ。私がまだ若い頃からだから、先代の殿の頃じゃった」
「その奇妙な物というのは…」私はうわずった声を出した。

「生憎私もそこまでは知らぬが、何やら前にその部屋にいた者の遺品とか、あるいは遺髪とか言われておった。噂だから、どこまで当てになるかは知らぬが、前の蘭学者を追い出した後、証拠になる物を隠し、新しい学者を入れておったということじゃ」
私と保室は顔を見合わせた。保室は冨楽庵に尋ねた。
「しかし、なぜそのようなことを」
「さて…恐らく家中の者で、蘭学者に憎しみを抱く者がそのような働きをしたらしいようじゃ。しかも、その頃から御家中で化け猫の噂が飛び交い始めた」

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