保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。なお「蜂曽我部家の怪猫」については、大河リメイクの「跡を継ぐ者」が終わり次第アップ予定です。

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直虎と呼ばれた女 序章一

その娘の名はひさといった。漢字で書くと寿。遠州の小領主、井伊直盛とその正室お千佳の一人娘だった。お千佳にはその後子が生まれず、家臣は直盛に、側室を置くように勧めた。しかしその当時、既に井伊家の所領は今川家に組み込まれており、その中でささやかな領地を安堵してもらっている状態だった。側室をとなると、当然今川の縁筋の者を紹介されるに違いなかった。直盛は、ひさに婿を取らせるつもりでいた。

婿にと決めていたのは、叔父直満の子、つまり直盛の従弟であったが、親子ほども年齢が違っていた。ならばということで直盛は、この子亀之丞を、ひさと目合わせるつもりでいた。井伊家の所領は小規模で、しかも今川に伺いを立てないと、何もできないような状態ではあった。

しかし今川に与しているために、武田や北条から守られていることも事実だった。今川家からは、目付役として小野政直が仕えていた。直盛は、この男の神経質そうな表情が苦手だったが、実務という点では、他の家臣が束になってもかなわないところがあった。

この政直にも、ひさや亀之丞とあまり年齢の変わらない息子がいた。名を鶴丸といった。ひさは亀之丞と遊ぶことはあったが、鶴丸とはさほどに親しくなかった。しかし亀之丞は、男の子同士ともいうこともあり、よく木登りをしたり、村の子供たちと鬼ごっこをしたりして遊んでいた。

どちらかといえばおっとりしていて、気の弱そうな亀之丞と違い、鶴丸は聡明な感じで頭が切れ、やや理屈っぽく、そういう点でもひさは、鶴丸を遠ざけがちになっていた。ひさは外に出るのも好きな反面、部屋に一日籠ることもあり、将来は尼様になりたいなど、両親の思惑も知らずに、乳母のとよを相手に話したりもしていた。

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