保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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直虎と呼ばれた女 序章二

この当時、天文年間の中期ともいえる1540年前後は、何かと慌ただしい時期でもあった。井伊家が今川家の先代、今川氏親によりその配下に組み込まれてから、既に何十年も経っていたが、今川と井伊の関係は、必ずしもうまく行っているわけでもなかった。また今川家周辺では、尾張の織田が三河に攻め込み、武田や北条は領地の獲得に余念がなかった。父直盛や家臣たちは、そのような様子に気づいてはいたが、天文十三年に数えの十歳を迎えたひさは、そのような動きを知る由もなかった。

そんなひさの身辺に、ある異変が起こった。ことの発端は、大叔父で、しかも亀之丞の父である井伊直満と、その弟の直義が駿河に呼び出され、その場で命を絶たれたことだった。父の帰還を待っていた亀之丞は、戻って来た首桶に呆然となり、言葉を失っていた。その後、とよから止められたにも関わらず、直満の屋敷をこっそり見に行ったひさは、一人で父と叔父の首桶と向き合っている亀之丞、そしてその側にいる龍潭寺住職、南渓瑞聞を目にした。

しかし直満の屋敷の家人から入るのを止められ、ひさは仕方なく引き返した。その時、今度は同じ家人の罵声が聞こえて来た。鶴丸も様子を心配してやって来たのである。この件は小野和泉守が、二人が謀反を起こそうとしたという讒言が引き金といわれ、家人はこの小野の息子に、情け容赦のない言葉を浴びせた。そのまま戻って行く鶴丸をひさは追った。鶴丸はひさを見たが、何も話したくなさそうにそのまま戻って行った。ひさはその時、初めて鶴丸を不憫に思った。

直満と直義は罪人ということもあり、法要は近親者だけでひそやかに営まれた。また、井伊家の墓地に埋葬することも許されない状態だった。そして亀之丞は、罪人の息子として追われる身となり、井伊家としても、ひさと将来的に夫婦とするのを、見送らざるを得なくなっていた。そして直盛は、南渓のつてを使って、亀之丞を逃がすことにした。ひさには何も知らされていなかった。そして亀之丞が姿をくらませた翌日、ひさは両親に呼び出された。

亀之丞がいなくなったこと、いつ帰れるかわからないこと、そして、将来の夫婦としての約束が反故になったことを知り、ひさはかなりの衝撃を受けた。直盛は亀之丞の手紙をひさに渡したが、それを読んでいる途中で、ひさはとめどもなく涙をこぼした。泣いているのはひさだけではなかった。母のお千佳も涙ぐみ、乳母のとよは声を上げて泣いていた。直盛も目頭を押さえていた。予期せぬ事態に、井伊家は揺れた。

今川家から出頭するようにとの下知が届いたのは、その数日後のことだった。

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