保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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蜂曽我部家の怪猫 十二

翌日、保室は茶人か歌の師匠といった格好をしていた。私にも変装を勧めたが、私は彼のように、変装した人物そのものになりすますことが得意ではなく。そのまま出かけることにした。我々は再び城の近くに行き、そこで辺りを見回した。保室は、須藤古之進が溺死したことにやけにこだわっていた。なぜ須藤のみが溺死したのか、それを探れば、この奇怪な事件の全容が見えてくると言うのである。

「須藤は結局殺されたんだ、単なる溺死じゃない」
「見せしめのためか」
「いや、見せしめのためなら他にも殺されているはずだ。要は、次席家老派や蘭学者たちを脅すための、人身御供だったと言ってもいい」
「しかし、蘭学者を殺すことで、次席家老派をそこまで脅せるのものかね」
「いや、どうもこの御仁は単なる蘭学者じゃないかもしれない」
「どういうことだ」

「昨日のあの老人の言葉に、どこか不自然さがあったのに気づいたか」
「冨楽庵か。いや、よく暴露してくれたと思ったが」
「確かに色々話してくれた。しかし冨楽庵は、須藤が急に行方が知れなくなったと言った。その後、お濠から溺死体が上がった」
「確かにそうだが、それが何かおかしいのか」
「半田梅翁も、何かで不審な死を遂げたと言っていた。須藤の死はあちこちに知らされ、しかも筆頭家老に反対する人たちが、いとも簡単に知ることができた。むしろ、率先して彼らに知らせているとも言えた。それはなぜか」
「蘭学者たちを脅すためだろう」
「それもそうだが、もう一つ理由がある。須藤は蘭学者のみならず、次席家老にも、あるいは若君にもかけがえのない存在で、彼らを脅すことこそが、かの人物を殺す理由だったのだ」

「よく考えてみろ」
保室はいつもの口調で、自らの推理を話し始めた。
「たかだか一介の蘭学者なら、追い出すだけでいい。殺すなどという強硬手段に出れば、里村藩、蜂曽我部家の名前そのものに傷がつきかねない。問題は、なぜ殺されなければならなかったかだ。大きな影響力を持つ人物だからに他ならない」
「では、須藤古之進は何者なのだ」
「俺の推測だが、藩主一族と関係のある人物だろう」

保室は持っている杖を高く上げ、城の方角を指した。
「恐らく城中で失踪したという噂をばらまかれたが、須藤はどこかに監禁されていたと見える。その後殺され、遺体が濠に何者かの手によって投げ込まれた。恐らくその直後に、半田が仕えるようになったのだろう。その後部屋の床下に、妙な物があるのに気が付いた。多分他の蘭学者たちも、同じような嫌がらせをされていたのだろう」
「では、昨日の御老人が言っていた化け猫との関係、あれはどうなんだ」
「これも里村藩の名を落とすための手段だろう。これは帰ってからじっくり考える予定だがね」

我々は帰途についたが、その時、かなり前に顔を合わせた旅籠の主人とばったり出会った。というよりも、向こうから声をかけて来たのだった。
「よく私だとわかったな」
「私どもは、お客様の顔を覚えるのが商売ですので」
やはり変装しないでよかったと思った私に、次の瞬間思いがけない言葉が飛び込んで来た。
「あの行商人の身元がわかりましたよ」

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