保室の事件帳

江戸版ホームズ+大河ドラマリメイク。

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黒子組合 四

保室は歩きながら続けた。
「第一、なぜあの大旦那が、筆だけは好きな物を持って来ていいと言われたか、そのわけはわかるか」
「全くわからない」
わからないどころか、疑問を持ったことすらなかった。私には書の嗜みはないが、結構筆というものは相性があるから、そのせいだろうくらいにしか考えていなかったのである。
「では、なぜ報酬が上がったのかは」
「私に訊くなよ、そんなこと考えてもみなかったのだから」
「では、そもそも黒子組合なんて奇妙な会合を考えついたのは、なぜだかわかるか」
私は、この質問にだけは自信を持って答えた。
「それは、善兵衛の顔にあれだけ目立つ黒子があるからだろう」
保室は苦笑いして言った。
「その点だけは合格だな」

我々は佐久場町に差し掛かっていた。軒を連ねる店の中に、善兵衛の店である伊崎屋があった。呉服店を経営しているらしい。保室はその前にちょっと立ち止まって中の様子を見ると、そばにいた男に声をかけた。
「すみません、伊崎屋さんはこちらでしょうか」
「そうですが、何か御用で」
「実は少し伺いたいことがありまして」
「何の御用でしょう」
「最近、何かお店の構えを変えられましたでしょうか」
「いえ、特に変えてはおりませんが」
「そうですか、以前こちらにお世話になったことがあったのですが、その時といくらか変わったように見えたものですから。些細なことで失礼しました」

保室のあまり収穫があるとも思えない会話を、私は少し離れたところで聞いていた。どうも何かを聞き出すというよりは、その男のなりを確かめているようだった。戻って来た保室に私は尋ねた。
「あれがこの店の主人かい?」
「主人ではなさそうだ、大番頭か何かだろう。一見何食わぬ顔をしているが、この事件に一枚噛んでるよ」
「また事件か、お前はよほどこれを事件にしたいようだな」
「したいも何も、これは最初から事件だ。明日にはそれがわかるよ」
そう言って、今度は裏の方に回った保室を、私はまたも大急ぎで追った。こと事件を調べる段になると、大抵はこの男に振り回されっぱなしで、常に急がざるをえなかった。

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